顧客サポートと対話エージェントというUX

このエントリーは「UX Tokyo Advent Calendar 2015 - Adventar」の11日目として投稿しています。

テレマ業界では数年来「オムニチャネル対応」や「カスタマーエクスペリエンス(CX)」という企業観点のキーワードがバズワードになっていますが、UXを語られることはあまりないので、本稿ではUXの観点から、顧客サポートと対話エージェントというサービス(技術)について書いてみます。
最近はBtoBでのIBM WATSONソリューションやMicrosoftのLINEアカウント「りんな」といったAI関連技術が盛り上がっていますが、それらも対話エージェントの一つです。「スマートフォン x SNS x 顧客サポート」はそういった技術を巻き込んで今後数年で劇的に変わっていく、とても面白いフィールドだと思います。

コールセンターの仕事は絶滅職種
まずは、顧客サポートの置かれている状況と認識について。
2014年の論文” The Future of Employment”で、英オックスフォード大のカール・ベネディクト・フライとマイケル・A・オズボーンが、10年後の仕事の消滅率を算出したランキングを発表しました。その中でテレフォンオペレーターは97% (660位)、テレマーケターは99% (702位・最下位) の確率でコンピューターに仕事をとって代わられるという分析結果になっています。業界としては、ほぼ消滅すると言われたようなものです。
ただ現状の個人的な感覚では、もちろんシュリンクしていくとは思うのですが、サービスの顧客対応では単純に問題解決できないことも多く、人に向けて作られているサービスでは有人対応自体がクッションとして機能している側面も多々あるので、もうちょっと緩やかな減退になるのではないかと考えています。

顧客サポートのUX
顧客サポートのUXでみなさんが日常的に触れるのは、宅配便の再配達や引っ越しの公共料金の変更とかで電話をかけると登場する自動音声応答(IVR)じゃないかと思います。「プラン変更については1を、料金ポイントについては2を…」というように音声ガイダンスに従って、数字ボタンを押していくやつです。IVRの歴史はけっこう長くて、90年代中頃から導入が始まって、特に大きな技術進歩なく、未だに電話サポートでもっとも普及している仕組みで、巷では現存する最悪のUXの一つとも言われています(笑)。音声認識IVRのような技術もありますが、今の所あまり普及はしていません。

スマートフォンというデバイス
「まぁそうだろうね」と言われると思いますが、スマートフォンはこれまでの顧客サポートのCXを完全にひっくり返すデバイスです。電話が、ほぼ完全にインターネットと一体化してしまったデバイスなのです。フィーチャーフォン時代のNTTドコモKDDISoftbank などの携帯キャリアは制限事項が多く、アプリからハードへのアクセスもかなり限られた環境しか提供されていませんでしたが、iOSAndroid OSで、より自由なアプリ開発環境やマーケットが提供されるようになりました。 PCブラウザから利用するウェブサイトやFAQシステムも電話の問い合わせを削減してきましたが、それを完全にワンフローで設計できるようになってきています。

個人的には、バブルチャットUIの登場は重要だと考えています。iPhoneのテキストメッセージングアプリを初めて触った時の感動は忘れられません。メール・ショートメッセージやこれまでのチャットとはぜんぜん違うヒューマンタッチなインターフェースで、LINEやFacebook MessangerもこのUIを踏襲しています。

バブルチャットUIは、ほぼリアルタイムでのやりとりもできますが『会話的な非同期コミュニケーション』を社会に根付かせました。これは大きな転機です。ガラケー時代のショートメッセージもコミニュケーションとしてはそんなに変わらないのですが、UIもまだ手紙のやり取りに近い感覚だったと思います。

LINEやFacebookというプラットフォーム
LINEアプリ(サービス)は、2011年6月にリリースされました。当初はSMSを拡張した、キャリアに依存しないグループチャットを提供するインスタントメッセージサービスでしたが、2011年10月には無料通話機能を追加し、2014年2月に企業アカウントの提供やAPI 公開などで、企業のコンタクトプラットフォームとしての機能を持たせられるビジネスコネクトというサービスを発表しました。

LINEビジネスアカウントでは、すでに下記のようなアカウントでシステム連携や対話型のやりとりなど様々な機能が提供されています。

またFacebookも今年3月の開発者向けイベント「E8」で顧客サポートサービス「Bussiness on Messenger」を発表したので、今後様々なサービスが出てくるのでしょう。

ニールセンの調査によれば、LINEとFacebookスマートフォンからの利用者数がどちらも3000万人を超えている、社会の重要なインフラになっているといっても過言ではないサービスです。
そして、統合されたUIから多様なコミュニケーション手段を提供しています。LINEを例にすると、何と下記のように7つも手段が選べます。

  • テキストチャット
  • スタンプ
  • 通話
  • ボイスメッセージ
  • 画像
  • 動画
  • 位置情報

まだビジネスアカウントから全て利用できるわけではないですが、企業から考えると、これだけのユーザーがいて、これだけのコミュニケーション手段を前提に顧客サポートを提供できる環境があって、自前で環境を整えるよりはシステム投資も抑えられるのだから、その分を有益なCXを考えるのにまわしたらいいんじゃないかと思うのです。

まとめ
最後に自分のことと対話エージェントについて、少しまとめて終わりとします。
もともと自分はFlash(主にFlash lite)を中心に、UIデザインやモバイルゲーム、ウェブコンテンツの企画・ディレクション・制作をやっていたのですが、7年程前にAI関連技術をウェブでどうサービス化するかということに興味を持って、対話エージェントの世界に飛び込みました。そして今は、テレマ業界の自動化ソリューションを中心にサービス展開を進めています。仕事で対話エージェントサービスに関わってきた中で感じるのは、自分の中でのデザインの定義やアプローチが随分変わったというか広がってきたということです。
ウェブコンテンツを作る時はまだグラフィックやGUIも大事な要素ですが、LINEやFacebookサービスの枠で考えると、もはやGUIには関わることができません。対話を前提とした情報設計がデザインということになります。GUIであれば、ボタンやアイコンなどUIパーツの組み合わせや遷移フローを扱いますが、対話インターフェースで扱うのは、ユーザーの入力にどういったリアクションをさせるかを設計する対話の想定です。
今後はSIRIのような音声エージェントの仕組みがゲームなどにも取り込まれたり、WATSONやマシンラーニングの技術も普及していくと思いますが、提供者も何かした目的があってサービスを提供するので、何も設計をせずに自由に考えて回答するようになることはありません。
そう考えると、対話設計もUIの一要素に取り込まれていくのかなと思ったりしています。